『日本のいちばん長い日』を見た

1967年に公開された岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』を『午前10時の映画祭』の4Kリマスター版で見ました。

1945年8月14日のポツダム宣言受諾決定から宮城事件を経て玉音放送に至るまでの24時間を描いた映画です。宮城事件とは無条件降伏に反対する陸軍将校と近衛師団が起こしたクーデター未遂事件でのことで、皇居を占拠し、玉音放送用のレコードを奪い、戦争を継続させようとした事件のことです。

宮城事件については少しだけ知っていましたが、もっと規模の小さいものだと思っていたら、けっこう大規模で歴史を左右するような事件で驚きました。映画についてもほとんど予備知識がない状態でみました。

この映画は大きく分けると鈴木貫太郎内閣が最高戦争指導会議、御前会議を繰り返すパートと、無条件降伏へ流れが向いているのを察知した陸軍省の竹下中佐、畑中少佐らがクーデターを企てるパート、そして横浜警備隊長の佐々木大尉が横浜高等工業学校の生徒達を扇動して首相官邸襲撃を企てるパートに分かれて物語が進行していきます。

前半は終戦に向けての会議の連続なんですが、『シン・ゴジラ』とは違い見ていて飽きないどころか画面に引き込まれていきました。鈴木貫太郎首相役が笠智衆というのは驚きました。陸軍大臣役の三船敏郎と海軍大臣役の山村聡が終戦の詔書の文言めぐって対立している後ろでアクビでもしそうな呆れた表情をしていたのがとても印象的でした。

終戦の詔書の作成、玉音放送の録音、ポツダム宣言の受諾を外交ルートを通じての連絡の一連の流れがなかなかスムーズには進行していかない様子は途中から『ラヂオの時間』とか『カメラを止めるな』といった喜劇映画を見ているような気分になりました。志村喬が演じた下村情報局総裁の「大日本帝国のお葬式だから」というセリフも面白かったですね。

宮城事件の首謀者である畑中少佐を演じた黒沢年雄の文字通り狂ったような表情が凄いかったです。そして民間人で組織された横浜警備隊を指揮する佐々木大尉を演じた天本英世の怪演もこの映画の見どころでした。天本英世の下の前歯が殆どないのが不思議な感じでした。近くに座っていた学生風の若者は天本英世が出てきて演説するたびに笑っていました。

後半の玉音盤を奪おうとする近衛兵と宮内省との攻防が非常にスリリングで、もしかしたら玉音盤が奪われてしまうのではないかという錯覚に陥りました。小林桂樹が演じる徳川侍従のとっさの機転と体を張った行動が日本を救ったように見えました。

玉音盤がダイレクト・カッティングで作られていたのも驚きました。一発録りでそのまま音声をレコード盤に刻むという方法でした。

宮内省の中を玉音盤を探す近衛兵や鈴木貫太郎首相の私邸に押し入って鈴木貫太郎を探す横浜警備隊の姿が吉良上野介を探す赤穂浪士のように見えました。

進まない会議と反乱を起こす軍隊という流れは『博士の異常な愛情』に似ているようにも見えました。『博士の異常な愛情』の日本での公開が1964年の10月ということなので多少は影響を受けているような気がします。

庵野秀明の『シン・ゴジラ』はもちろん、軍人が怒鳴り合って何を言っているのか分からないところは宮崎駿の『風立ちぬ』に影響を与えているように見えました。押井守にもこの映画の影響を感じます。『パト2』での後藤隊長の「戦線から遠退くと楽観主義が現実に取って代る。そして最高意志決定の段階では、現実なるものはしばしば存在しない。戦争に負けている時は特にそうだ。」というセリフはこの映画の中の鈴木貫太郎内閣や陸軍、海軍にピッタリと当てはまります。



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